12月××日:いよいよ心待ちにしていたレコーディング初日。殆どの若者がキリスト教徒になってしまい、恋人にプレゼントという慈悲を与えることになっているアノ日である。初日ってのはいつももワクワクするものだが、特にパイナップルシュガーに入ってからの4年(あれ、5年だっけか?)なんかそのくらいの間ずっと思っていたのである「いつかちゃんとCDを作りたいな」…と。なので自然とワクワク感も増していた。

 このパイナップルシュガー(正式名称 The Pineapple Sugar Hawaiian Band)は24年前(1978年)にレコードを出していて、今回はその時と同じところでレコーディングすることになった。どこかといえばいつも練習している場所、第一級こんにゃく技士でバンドリーダーでもある山内雄喜氏のお宅の一室なんである。スタジオ設備のない一般住宅、しかも築?年の木造モルタル。普通のエンジニアなら誰もが顔を歪めるであろうこの部屋こそ板橋区で、いや都内で、いや日本で一番アロハスピリッツの濃い場所なのである!…と思っている。確かに楽器を弾いていると何故だか気持ち良い部屋であり、ヘリコプターさえ飛んでなきゃ静かだし、まるで我が家感覚ともいえる居心地の良さとか、そんなメリットだらけの場所に録音機材を運び込んで録ってみようというわけですな。



 山内宅に着くと既にエンジニアの石崎さんが林立するマイクスタンドを巨体で押しのけるように機材の結線中。早速機材をチェックしてみるとADAT(デジタルレコーダー)16Trにコントローラー、コンパクトながら良い面構えのミキシングコンソール(これは録音中に皆がモニターする音を作る為のモノ)、さらにその下に目をやるとコンプなどエフェクターの下にゲゲッ!NIVEのマイクプリがなんと8発もあるじゃんか!(このプリアンプこそが録り音に大きく関係する) 石崎さんは私よりも年上で自称アナログ人間。ということは太い音が約束されたようなものなので思わず目元と口元ゆるむ。
 さてメンバーも続々と集まり録る曲の打ち合わせ。今回はオリジナルを3曲収録しようということで、すでにある山内さんと上原まきちゃんの曲に加え私のインスト曲もやることに決定。そうは決まったもののまだ曲はなし!アハハハ作んなくちゃ、まあなんとかなるでしょうとひとまず呑気に構える。一方他の収録曲についてはそのつど決めるというなんともハワイアンぽ〜い大雑把なやりかた。アバウトで好感がもてます。ギチギチに管理されたレコーディングよりワクワクするし、賛成。


 今回の録音方法はというと、まずは全員による一発録り、そのためにここでやるようなもんすからな。基本的に唄の良いテイク優先方式(まれに楽器優先になる場合もあり)。そうして録音したベーシックトラックに後日必要な楽器やコーラスなどを重ねて録音していくという、まあごくごく普通の録り方すな。普通じゃないのは場所と平均年齢だけ。かくして「狭いながらもアロハな我が家的」レコーディングはスタートしたのであります。

 
『Ku'u lei poina 'ole』 Take-3

山内さん作曲の美しいバラード。唄うのはパイナップル婦人会の優美ちゃん。どなたか優美ちゃんに会った時に「パイナップルシュガー婦人会の石川さんですか?」と聞いてごらんなさい。優美ちゃん顔真っ赤にして喜んでくれますよ。あとは知らないけど。
えー、この曲はライブでもたくさん演奏してますから慣れたもんでアッサリと録れましたな。山内さんはガットを持ったので、私は6弦を弾いてますね。順調な立ち上がりです。
『Puu anahulu』 Take-2
これまたパイナップルの十八番ですな。私のSlack-Keyも良い感じで山内さんと絡んでて気持ちよし。長尾さんの唄もいいのが録れて良かった良かった。ベースをその場でちょい直し。快調な滑り出しです。録り初めの頃はこうして慣れ親しんだモノからやっていくとスムーズだし調子も出てくるもんです。

『ka manu』 Take-3

練習した時はわりとのんびりした普通のハワイアンだったものを山内さんのアイデアで超倍速アレンジに。しかしまあ録音当日に大改造する大胆さには恐れ入ります。私は何とかついて行ったけど、唄とウクレレを同時にやらなくちゃならない長尾さんは戸惑いからか苦労を強いられる。結局後日唄とウクレレを入れることになり演奏優先のテイクをOKとして初日終了。

1月×日:正月気分も束の間のレコーディング2日目。新年の挨拶を交わしだらりと始める。

『Pua anela』 Take-4
パイナップル内ではマスコット的、愛娘的存在の上原まきちゃんの曲。曲を皆に説明する時にウクレレで弾き語りしてもらったのが良かったので曲頭と曲終わりを本人に弾いてもらうことにする。それを包み込むオジサン4人の演奏が実に愛に溢れていた。天下の山内雄喜も可愛い子チャンにはまるで弱い。間奏がまだ決まってなかったのでコードを適当に書いた。

 この頃から私は少しでも良いCDが出来るよう曲のアレンジ、コンセプトなど自分の経験から思う事をバンバン言い出すようになる。むろん山内氏をはじめ皆にまず相談はするものの、わりとすんなり通ることが多くサウンド面で貢献しているという実感も得るが、同時に他のメンバーと比べて私はハワイアンミュージックに対する解釈度が低い分細心の注意が必要なんだと肝に銘じておく。
「Gabby's Medley」の山内アレンジを皆で意見を出しつつ固めて一度録ってみるが、本チャンは次回にまわし本日はこれまで。
 終了後、皆で近所の蕎麦屋に行ったが、そこのおばちゃんは以前歳をバラしたとき余程驚いたらしく、それ以来私をこう呼ぶ「あら〜、いらっしゃい○○歳!」苦笑いするしかないのである。公表もしないのである。

1月××日:2連休を使ってまとめ録りをしようという作戦。そんな効率的な日がないと作業はいつの間にかどんどん遅れていくものですからな。ここはサクサクいきたいところ。

『Gabby's Medley』 Take-1

パイナップルシュガーの原点であるギャビーでお馴染みの曲ばかりを4曲つなげるという荒技。細かいことを打ち合わせたり、簡単な譜面を書いて最終的なサイズを決める。ギャビーの曲をやる時は皆がとても楽しそうな顔をする。当然演奏も活きがいいのである。
『I mi au ia oe』 Take-4
優美&まきのツインボーカル。これもライブではさんざん演奏してるので問題なくOK。

『Ka oiwi Nani』 Take-2

唄はまきちゃん。今回のアルバムで女性2人が唄う曲が殆どゆったり系のものなのでサウンドに変化をつける為おもむろにHawaiian Guitarを手にしてみる。こういった自分が弾く楽器のチョイスは、通常楽器を弾かず他の音を聞きながら想像して頭の中で鳴ってるモノを選ぶというものだが、これが創造力を刺激して意外に楽しい。たとえば「三味線やってみようか」などと思うだけならいいのである。この時はインスピレーションで選んだがこれがなかなかのハマリ具合ではないでしょうか?ダビングの必要もなく完パケ。(完パケとはその曲の録音が終了したこと)

『Honolulu』 Take-4
優美ちゃんの唄うバラード。彼女の唄は素晴らしいのだが、この英語の曲に限ってなんだか普通な感じに聞こえたので「もっとシンプルに唄ってみたら」と助言。結果は手探り感が良くてOKとなった。

『Kila Kila'o Haleakala』 Take-1

山内氏のSlack-Key 炸裂モノ。今回のアルバムで山内さんはハワイのグルーブ感が出てくれればいいと云ってたのだが、この曲はそのいい例だ。山内さんのギターが前ノリでベースの鈴木さんはかなり前ノリ、職業ミュージシャンの私はジャスト〜アフタービート体質なもんでよく置いてけぼりを食らうのである。そのへんがパイナップルでの最も難しいポイント。逆に云えばそれ以外は苦労もせず気持ち良いことばっかり。4人分の音を1回録って完パケ。

1月××日:年齢のキリが良いことを年長者に祝ってもらい、そのお礼として踊ってみせる式典の日。

『Mokihana Lullaby』 Take-3
通常バンド全員でやる曲を、まきちゃんの唄と山内さんのガットのみのアンビエントヴァージョンにする事に。一緒に演奏するつもりでいた長尾、鈴木両氏が「えっ、やんなくていいの?」と拍子抜けしていたのが絶妙に面白かった、人間の目が本当に点に見えた。
 この新アレンジは終始ルバートなので出来不出来は2人の息のあわせ方にかかる。唄い直し=やり直し。集中してモニターしたがギターの繊細なタッチが実に上手い。山ちゃんは上手いっ!

『Sand』 Take-3

優美ちゃんの英語曲。大人なムードてんこ盛りな唄と対照的な山内Slack-Keyの対比が実にパイナップル。
どうしてもエンディングが合わないので編集でなんとかする事に。Steelのみをダビングするつもりだったので体育座りで見学。
『My wahine and me〜a'oia』 Take-3
山内さんのウクレレがメインでJazzyなムードのインスト曲。長尾さんの持ってきたオールコアのshimoアーチトップを使ってみる。
これからダビングする楽器やコーラスのリストを作成し山内さんに相談する。ゲストも少し呼ぶことに。

 1月××日:レコーディング初日から一ヶ月。未だ手を付けてない曲が2曲もあるので本日は時間との戦いなんである。「クイズタイムショック感覚」ともいう。私のPEDAL STEELが極めてかさばるメーワクなシロモノなので皆が来る前にさっさとやってしまおうという訳で単独早出出勤。山内さんに「Take3までやっちゃダメよ」と云われるが気にしない。
「Sand」から録る。この曲が得意なハワイのSTEEL弾きで最近友達になったボビー・インガノというナイスガイがいて、その男の顔がチラッと浮かぶがすぐに振り払う「あっち行ってなさいね」。
「Honolulu」をちょいちょいと録音。ソロの部分でやや苦戦。Take-3までやってあとは編集することに。一口に編集と云ってもSTEELの場合音の切れ目がバラバラだったりするので全Takeを確認用に持ち帰る。
「Mokihana〜」Take-1で音数が多かったので、方向性を変えてSEっぽいSTEELをもう一度録る。こういうのはちょろい。
「Mokihana〜」続いて鼻笛。まきちゃんの目が「やってみたい!」と訴えていたので低い方を、私が高い方を一緒に録音。さあこの時にまきちゃんの使った笛を抽選で一名様にプレゼント!出来るわけないか。

『Alika』 Take-2

普通のミディアムテンポの普通の8beatなんだがこういう曲はホントやってて楽しい。ノリとテンポが良かったので演奏優先にてOK。本チャンの唄は後日に。
「My wahine and me〜a'oia」私のギター差し替え。エレクトリックのフルアコにしてみる。気分はいっちょまえのジャズギタリストのようだが実にもうヘナチョコなんである。穴があったら塞ぎたい。
「Pua anela」に混声コーラス入れに続いて間奏のダビング。何の楽器を入れようかと悩むが、思いつきでエレキのスライドを試してみた。なかなかいい感じなんだが弦高がメチャクチャ低いストラトしかなかったので思うように弾けない。頑張ったのだけど最後まで泥酔したトホホなライクーダーのようだった。これだけは本当に録り直ししたかったが無情に録りは進む。いったい何年滑りモノやってんだかなあオレはよう、と少々落ち込む。
 そんな落ち込んでいるところに高橋さん登場。この人は25年前のパイナップルのアルバムでもマンドリンを弾いてた人で、ボクと同じくロックな心の持ち主。実は高橋さんをぜひ呼びましょうと言い出したのは私で、山内さんに相談したところ「それはいいね」と即決したのだった。ただ同窓会状態だけは避けたいと思っていた。
「Pu'u anahulu」「My wahine〜」だがダビングが始まったとたん驚いた。そんな心配を吹っ飛ばすかのようにオニさん(高橋さんの愛称)は味のある素晴らしいマンドリンを弾いたのである。呼ばれたことへの感謝が音になっていた。「愛には愛で返します方式」というか音に心がバッチリ込められていたのだった。やはりこの人が正解だったなとニヤリ。まわりをみると皆ニヤリ。
「Pu'u anahulu」のコーラスもついでに録音。マキちゃんの声が清涼剤のように耳にしみる。
「Gabby's Medley」「Ka manu」マンドリンの予定は2曲だったがそんなこたぁ関係ない、ということでオニさんに追加を頼む。しゃぶしゃぶ屋にて「ちょっとお姉さーん、肉追加ね!肉ぅ〜っ!」あの時の気分に似ている。オニさんもいやな顔ひとつせず一生懸命弾いてくれて、真冬のちょっと暖かな時間だった。

『Pagoda』 Take-3
私のオリジナルインスト曲。もしアッタ・アイザックスが生きていたらこんな風な曲を作っていたに違いない。やってきた事が少しは昇華したのかなあと自分で思ってたりもする。オニさんもメッチャおいしいマンドリンを弾いてくれた。

 話は少し脱線。山内さんと一緒に音楽をやってるとわかるのだが、ごくたまに「あ、本気だ」と思う瞬間がある。山内さんの持っている技術とエネルギーを全開にした状態(今度からスーパー山ちゃんとでも呼んでみるか)のことだが、それを私はハワイらしくもなく「牙をむく」と表現している。もう顔つきからして旅先でパスポートなくしたような真顔に変わる。このアルバム全般にたくさんの牙をむいている山内さんだが、この私の曲でも特別な牙をむいてくれて実に作曲者冥利につきる幸せな思いをした。もちろん4人の相乗効果でもあるが、音楽をやめられない理由がこのへんにある。この日は偶然オニさんが居残ってたり、鈴木さんが電車で帰るのを諦めたりと様々な偶然が重なって録れたテイクだったことも忘れられない。そういう音以外の事が楽曲に感動させる力を与えたりもするのだ。タイトルはハワイに行く度にいつも宿泊するホテルの名称。

 こうして長い一日が終わったのが午前3時。いい気分だったのでどこかで祝杯でも上げたかったが板橋本町は渋谷とは違いすぎた。

 1月××日:2月に変わるまであと35時間程。泣いても笑ってもとにかく今日中に全てを録りきってしまわなければいけない。とは云いつつも先日まとめて消化したので余裕はあるが…。

「Ka manu」の倍速ウクレレを山内さんが弾いた。なんの問題もなく終了。まったくこの人は達人度が高い。
その高いところに栗コーダーの川口君登場。(私の音楽仲間で友人で旅人で呑気で…)
「Ku'u lei poina 'ole」待機していた長尾さんにはさらに待機していただいて、先にFluteを入れる。私がアレンジして譜面にしたものを吹いてもらうんだが、一部運指が大変なフレーズになってたらしく丁寧に時間をかけつつも敏速に録った。
「Ka manu」「Alika」長尾氏唄入れ。ベーシックの時とはうって変わった堂々とした、男らしい、おじさんぽい唄いっぷりで時間もあまりかからなかった。やっとゴールのテープが見える。
「Ka manu」少しスパイスを効かせたくてあまりハワイアン的でないラインのコーラス入れ。吉と出るか?
「Alika」山内さんのウクレレを録る。何の楽器を弾こうがこの人は早い。とにかく早い。めくるめく早い。
「Alika」続いて男だけでのコーラス録り。かなり雑だったがそのくらいがいいのではないかと思ったのであまり詰めなかった。もう少し詰めるべきだったのかもしれない。皆は詰めて欲しかったのかもしれない。しかし詰めてもあまり変わらないのかもしれない。いや……。
「Gabby's Medley」ストロークの厚みを出すのと、決まりフレーズ、間奏などがあるので私の6弦ギターを全編に入れる。山内宅の便利なところは良い楽器が魔法のようにすぐ出てくるところ。「アレ使ったらどうかなあ」「じゃ持ってくるね」という具合。この曲で弾いたのは私のお気に入り?のMartin D-28(ハカランダ)。昨年ディズニーのオムニバスの時にも借りて使わせてもらった逸品であるが弦はそのとき私が張り替えたまんま!少々アタックの強い荒削りな演奏だったが勢いがあってよしとする。続けてバンジョーもさくっと録る。ハワイアンのバンジョーはこう弾くのが正しいなんてことはまるで知らない。
「Honolulu」もうワントライしてみたいという優美ちゃんの希望で唄を入れてみる。手探り感はなくなったが味わいのあるピュアな唄が録れたのでこちらを採用することに。彼女によるとベーシック録りの時に無かったSteelが入ってたのが功を奏したらしい。唄とはそのように微妙なものであります。その後コーラスも入れる。
「Sand」グルーブ感が足りないとの鈴木さんの意見で私の12弦を入れる。最初から弾いてりゃ良かったと思うくらいパイナップル度がアップ。「アップダウンクイズ」のゴンドラが一気に2段階上がる感じに似ている。(誰も知らないか)
「Pu'u anahulu」一部12弦直し。
「My wahine〜」山内さんのNATIONAL(Acoustic Steel)をダビング。またも牙。一発OKと思ってたら意外にも本人からは「もう一回ね〜」珍しいこともあるもんだ。本気だ。こういうプレイを間近で見ているのだから私は得をしているに違いない。
「I mi au ia oe」間奏から出てくる山内さんのSTEELダビング。こういうハーモニックス(ハワイではチャイムというが)を多用した演奏方法はHAWAIIAN STEELの必須科目であるが流石と思わせるテイクであった。あっと云う間に終わったところで『全録音終了。総録音日数6日間。完パケ!』結局午前1時になってしまっていた。
 MIXの事を考えるとホッとしてもいられないが、とりあえずメンバー、スタッフ共お疲れ様でした。

MIXとMASTERINGは「発声練習をしながら食べ物を投げる日」から2日間、西麻布のスタジオで行われました。
GEN-Koalani-TAMURA 2002.2/7